醤油は鎌倉時代、中国に留学した禅僧が持ち帰った「径山寺(きんざんじ)味噌」から生まれたと言い伝えられています。さらに遡れば遠く飛鳥時代、時の法令「大宝律令」の中に宮中で管理すべき食料として「穀醤(こくびしお)」というものの存在が記録されており、これに醤油の原形を見ることができます。温暖な気候、適度な湿度、そして豊かな水に恵まれた国、日本。その風土に育まれた醤油という発酵調味料が、海の幸、山の幸と出会い、この国ならではの食文化をつくりあげ、支えてきました。そして21世紀を迎えた今、醤油は世界の調味料として脚光を浴びています。五原味といわれる甘味、塩味、酸味、苦味、旨味を持ち合せ、美しい色と豊かな香りを兼ね備えた醤油。それは、他に類を見ない万能調味料です。さまざまな分野で、世界各国の文化交流が急速に進む中、醤油が世界の食文化を築いてゆく日も、そう遠くはないでしょう。
- 醤油の種類
- 濃口醤油
- こいくちしょうゆは、全国のしょうゆ消費量の約80%を占める最も一般的なしょうゆです。塩味の他に、深い旨味、まろやかな甘味、さわやかな酸味、味をひきしめる苦味を合わせ持つています。調理用・卓上用どちらにも幅広く使える、まさに万能調味料です。
- 淡口醤油
- 「淡口」と書いてうすくちと読みます。関西で生まれた色の淡いしょうゆで、しょうゆ全生産量の約15%を占めています。発酵と熟成をゆるやかにさせる食塩を、こいくちようゆより約1割多く使用。素材の持ち味を生かすために、色や香りを抑えたしょうゆでう。卓上ではあまり使われず、素材の色を美しく仕上げる炊き合せ、ふくめ煮などの調理に使われます。
- 溜醤油
- たまりしょうゆは、主に中部地方作られる色の濃いしょうゆです。トロ味と、濃厚な旨味、独特な香りが特徴。古くから「さしみたまり」と呼ばれるように、寿司、刺身などの卓上用に適するほか、加熱するときれいな赤みが出るため、照り焼きなどの調理用や佃煮、せんべいなどの加工用にも使われます。
- 再仕込醤油
- さいしこみしょうゆは、山口県を中心に、山陰から九州地方にかけての特産しょうゆです。他のしょうゆは麹を食塩水仕込むのに対し、しょうゆで仕込むため「再仕込み」と呼ばれています。色・味・香りとも濃厚で、別名「甘露しょうゆ」ともいわれ、刺身、寿司、冷奴などおもに卓上でつけ・かけ用に使われています。
- 白醤油
- しろしょうゆは、愛知県碧南地方の特産品で、うすくちしょうゆよりさらに淡く琥珀色のしょうゆです。味は淡白ながら甘味が強く、独特の香りがあります。色の薄さと香りを生かした吸い物や、茶碗蒸しなどの料理のほか、せんべい、漬物などにも使用されています。
- 醤油の原料
- 大豆・脱脂加工大豆
- 大豆の主成分であるたんぱく質が、麹菌のたんぱく分解酵素(プロテアーゼ)により分解され、しょうゆの旨味成分であるアミノ酸を生みます。脱脂加工大豆とは、しょうゆ製造上必要なたんぱく質を残し、あまり必要のない脂肪分をあらかじめ取り除いたものです。
- 小麦
- 小麦の主成分であるでんぷんが麹菌の酵素(アミラーゼ)の働きでブドウ糖に変わり、甘みとコクを生み出します。さらにブドウ糖が乳酸菌により乳酸や酢酸などの有機酸に変化し、塩辛さを和らげ、しょうゆの味をひきしめます。ブドウ糖の一部は酵母の働きでアルコールに変わり、香りを高める働きをします。
- 塩
- 塩は仕込みの段階で水に溶かして加えられ、塩味のもととなります。また、乳酸菌・酵母といった有用な微生物をゆるやかに働かせる重要な役割を担っています。
- 醤油の製造方式
- 本醸造方式
- しょうゆの伝統的な製造方式。蒸した大豆(脱脂加工大豆)と炒った小麦をほぼ等量混合し、種麹を加えて「麹」を造ります。これを食塩水と一緒にタンクに仕込んで「諸味」を造り、撹拌(かくはん)を重ねながら約6~8カ月ねかせます。麹菌や酵母、乳酸菌などが働いて分解・発酵が進み、さらに熟成されてしょうゆ特有の色・味・香りが生まれます。
- 混合醸造方式
- 「諸味」に大豆(脱脂加工大豆)のたんぱく質を塩酸分解してつくったアミノ酸液(または酵素分解調味液、または発酵分解調味液)を加え、熟成させます。
アミノ酸特有のうまみを生かしたしょうゆで、地域によってはこの特徴が好まれます。
- 混合方式
- 「本醸造しょうゆ」(または混合醸造しょうゆ)に大豆(脱脂加工大豆)のたんぱく質を塩酸分解してつくったアミノ酸液(または酵素分解調味液、または発酵分解調味液)を加えてつくります。
アミノ酸特有なうま味を生かしたしょうゆで、地域によってはこの特徴が好まれます。
(JAS法定義の概略です)
- 醤油の効用
- 消臭効果:生臭さを見事に消してしまう
- しょうゆをつけて刺身を食べるのは、味だけでなく、しょうゆに生臭みを消す大きな働きがあるからです。これはしょうゆの中のアミノ酸の一種メチオニンが変化したメチオノールという物質の働きによる消臭効果です。
- 加熱効果:食欲をそそる、色と香りを出す
- 蒲焼きや焼き鳥などの食欲をそそる香りは、しょうゆの中のアミノ酸と、砂糖やみりんなどの糖分が、加熱によりアミノカルボニル反応をおこし、メラノイジンという芳香物質ができるためです。アミノカルボニル反応は、美しい照りを出す働きもします。しょうゆの色と香りを生かした照り焼きなどは、まさにこの反応を利用したものです。
- 静菌(殺菌)効果:日持ちを良くする塩分と酸
- しょうゆには、塩分と有機酸が含まれているため、大腸菌などの増殖を止めたり、死滅させる効果があります。しょうゆ漬けや佃煮などはこの効果を利用して日持ちを良くしています。
- 対比効果:甘味を一層ひきたてる
- 例えば、甘い煮豆の仕上げに少量のしょうゆを加えると、甘味が一層ひきたちます。一方の味が強く、他方の味がごくわずかな場合、主体の味がより強く感じられる、このような効果を対比効果といいます。
- 抑制効果:塩味を抑え、和らげる
- 漬かりすぎた漬物や塩鮭など、塩辛いものにしょうゆをたらすと、塩辛さが抑えられることがあります。これはしょうゆの中に含まれる有機酸類に塩味を和らげる力があるためです。このように、混ぜたときに一方あるいは両方の味が弱められることを抑制効果といいます。
- 相乗効果:だしと働きあってつくる、深い旨味
- しょうゆの中のグルタミン酸と、かつお節の中のイノシン酸が働き合うと、深い旨味がつくりだされます。このように、混ぜ合わせることにより、両方の味がともに非常に強められることを、相乗効果と呼びます。そばつゆや天つゆなどが、このよい例です。
- 醤油の塩分
- 醤油は塩分が「濃口醤油」が15-17%、「淡口醤油」が17-18%含まれています。塩分を抑えた「うす塩」(約12%)や「減塩」(約9%)のものも販売されていますが、味が物足りずに多く使用したら、「濃口醤油」、「淡口醤油」と同じ塩分をとることになります。弊社では「うす塩」、「減塩」を特にお薦めしておりません。古くから日本の食文化においては、先人たちの食に対する工夫があり、「刺身」には「刺身のつま」(野菜や海藻を添える)がお皿に盛りつけられます。この「刺身のつま」を醤油につけて、「刺身」に醤油をぬったり、上にのせて食することが、塩分に注意する方々の食べ方です。
最近、醤油や塩水を「スプレー」でかけると塩分を少なく摂取できるという報道があります。「スプレー」は、構造上バネが入っており、バネの部分を醤油や塩水が通らない構造のものは、問題ありませんが、ほとんどのスプレーはバネの部分を液体が通ります。バネは金属で造られており、醤油や塩水を使用した場合腐食します。バネにステンレスを使用したものも、醤油や塩水では腐食します。
- 市販の「スプレー」のバネ部を液体が通るものに醤油を入れて評価 (有)ステンレスジーネット
- 試験方法:「スプレー」に醤油を入れた後、1日1回スプレー実施を5日間繰り返し行い、その後3カ月間、常温で放置した「スプレー」を分解して、バネ部の腐食状況を調査した
- 試験結果:ステンレスのバネとPP接合部にサビと腐食が認められ、バネ部は全体に肌荒れ状となっていることから、ステンレスでは腐食が発生し、金属イオンが溶出する可能性がある
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